 |
ISH
真岡市 2012年10月竣工 中川敦玲さんによる写真はこちら |
道路に対する顔として鎮座する築100年の雨屋(蚕小屋兼倉庫)を住宅に改修する計画です。
旦那さまをのぞく、ご家族にとっては、当初、とても住めるような場だとは思えなかったようです。
確かに、構造材に腐食が見られ、内部は真っ暗、つちほこりが舞う、湿っぽい場でした。
しかし、現地を拝見すると、私どもにとっては、とても魅力的な建築に見えました。
錆びたブリキの鉄板、茶色に焼けた木壁、くすんだしっくい壁、艶が抜けた瓦。
それらは本物の素材を使用し、時間を経ることでしか得られない特別な魅力でした。
内部に入り天井を見上げれば、手かんなによって削られた変形丸太の三段梁が等間隔に並んでいました。
現代の流通機構、大工技術では、やりたくても費用や技術の関係でなかなか難しいもの。
それらを活かしつつ、生活に必要な光と風、温熱環境を確保すること。もちろん耐震も。
それがこの建築を改修するにあたっての絶対条件でした。
水平方向は既存の開口部を活かし、出入り口と風道に。不足する光量はトップライトで補いました。
重量や扉厚の関係で難しかった玄関格子戸以外は、ペアガラスと木枠網戸を挿入し、断熱・通風を確保。
天井面にたまる温かい空気をカウンターアローファンによって床下に送ることで簡易床暖房と気流循環を確保。
磯山石積の壁にアンカーを打ちこみ、コンクリート壁と一体化させることで、石積の安全性を確保。
全ての軸組みの端部から半間の位置に柱を建て、新しく設置した基礎に屋根荷重を伝達させること。
新柱間に耐震要素となる耐力壁を設置し、既存の外壁に構造上の耐力を期待しないこととしました。
内部仕上げは既存の雰囲気に配慮し、べニアに自然塗料やペンキ塗と少し荒い仕上げに。
梁や垂木、野地、窓周りなど、腐食の激しい部分は、既存のイメージを守りつつ造り替え。
施工はご近所の工務店兼大工さんである鳥羽工務店。職人さんも近所の方でとてもアットホームな現場でした。
建築知識2014年4月号 巻頭掲載
GOOD DESIGN AWARD 2015 受賞
GOOD DESIGN賞受賞資料(審査員コメント)はこちら
写真家・中川敦玲さんによる写真はこちら
pic01 改修前:西側母屋前から望む。下屋の痛みが特に激しい。屋根がうねり、瓦も一部破損している。
pic02 改修前:南西から。妻面は雨が吹きかけるので鉄板が貼られた模様。高窓枠周りは雨で腐食。
pic03 改修前:東側面。写真ではわかりにくいが、東日本大震災で石積の一部が歪み、瓦も落ちている。
pic04 改修後:西側母屋前から望む。できるだけ既存のイメージを守ろうとした。下屋の瓦は不足したので新規に。
pic05 改修後:南西面から。トップライトがめだたないよう、古い瓦との取り合いに職人さんが苦労をされた。
pic06 改修後:東側面は石積間の扉をホイトコ窓に変更したのみ。漆喰の修復は見送っている。
pic07 改修前:雨屋内部。実際はかなり暗い。土がむき出しで、雨漏りや、壁からの水染みなど。
pic08 改修前:雨屋上部。長時間露出を行い撮影。大工の手による美しい架構が連続していた。
pic09 改修前:下屋部分。雨の跳ねかえりや、屋根漏水による野地板や柱、構造材の痛みがめだつ。
pic10 改修後:ダイニングテーブルよりリビングを望む。正面は浴室・洗面所・トイレが設備コア化されて配置。
pic11 改修後:設備コア上のロフトよりLDK、寝室方向を望む。既存の架構が活かされている。
pic12 改修後:腐食の激しかった下屋は撤去後新築。既存開口の高さを上げ、玄関の格子戸とFIX窓を設置。
 |
 |
 |
 |
 |
pic13 |
pic14 |
pic15 |
pic16 |
pic17 |
pic13 リビングより、ダイニングキッチンおよび、寝室方向を望む。新たに設置した端部の独立柱が架構を支える。
pic14 玄関ドア脇からキッチンカウンターを通し、寝室方向を望む。柱と梁が平行に連続しているのがよくわかる。
pic15 子供室入口からリビングダイニング方向を望む。左側は外壁から離れてコア化させた設備部分。
pic16 子供室。最南端に配置される。既存高窓を活かすため、収納不足の解消のため床が揚げられる。
pic17 主寝室。腐食していた木壁部分を開口に変更。白い壁はリビングに連続。茶色い壁は収納コアを形成。
pic18 石壁(H1800)にコンクリート壁を添わせる。上部は木軸べニアにEP塗り。結果、石壁のスリットが現れる。
pic19 近所の橋に使われていた稲田石。それを敷き、雨跳ね防止の5号砕石。木製ガラス引戸と無垢の床。
pic20 カウンターアローファン本体と、天井・床下を結ぶパイプ。生活空間から隠すためクローゼット上部に設置。
DATA
市街化調整区域内改修工事(都市計画法上の申請あり)
内部床面積 24坪 (79.3u)
ロフト及揚げ床 6坪 (19.8u)
下屋 8坪 (26.4u)
建築設計監理;STUDIOPOH
施工者;鳥羽工務店 (真岡市)
2012年10月竣工
写真 STUDIOPOH
STUDIOPOH
info@poh.jp
|